飲食業界27年、現役料理長です。
今回は、飲食店スタッフのADHDの方と働いた経験をもとに「飲食店とADHD」について解説します。
以上の点を目標として考察していきます。
ADHDの存在を飲食店スタッフや本人が知らない場合、次のような解決しない悩みに苦しむ可能性があります。
飲食店での仕事が上手くいかない時、上記のようなお悩みがある方は「ADHDの可能性」を考えてみてください。
とくに、頻繫に「うっかりミスを繰り返す」のはADHDの特徴です。
そもそも、「ADHD」とは何なのでしょうか?
目次
ADHDとは?
医学的には、「注意欠如」「多動症」とも呼ばれています。
ADHDの症状とは?
しかしながら、ADHDの症状は2つに分かれるわけではなく、「不注意優勢」「多動・衝動優勢」に加え、「不注意と多動衝動が混合して存在するケース」の3種類あります。
ADHD「不注意優勢」の症状
一方で、自分の好きなことに対する集中力は強く、話しかけられても気づかず「話を聞いてない」と誤解されることがあります。
ADHD「多動・衝動性優勢」の症状
以上のことから、集団生活において「落ち着きのなさ」を指摘されることが多くなります。
ADHD「不注意、多動・衝動性が混合した」症状
不注意と多動・衝動性の症状を共に満たしているタイプです。
「忘れ物が多い、順番を守れない、じっとしていられない」などの症状がみられたら、混合型の可能性があるといわれています。
ADHDの治療について
ADHDの治療は大きく分けて、「療育(発達支援)と薬による治療」があります。
ADHD児の大多数が成人になると、独創的で生産的な人間になり、学校よりも働く環境に適応しやすいといわれています。
しかしながら、小児期にADHDの治療が行われなかった場合、アルコール乱用、物質乱用、自殺のリスクが高くなるといわれており注意が必要です。
医学について詳しくは専門のこちらをご覧ください
ADHDは自覚しにくい?
ADHDは幼児期に治療を受けたり、ご両親から伝えられていない場合、周りの人達が認識したり、ご本人が自覚することが難しい面があります。
なぜなら、ADHDは学歴とは関係なかったり、日常の少しの時間を遊ぶだけの仲では「誰でも当てはまるような症状なので気づきにくいからです。
親がADHDの場合、50〜80%(平均70%)の確率で遺伝するので、例えばご両親共にADHDの場合、その家庭の日常は普通と認識され、家族内で違和感を感じないからです。
ADHDを認知・自覚したら日常が楽になる?
小児期にADHDの治療を受けると、成人になったとき症状をかなり抑えることができるといわれており、ご両親や本人がADHDの症状がある場合、早めに病院で診断を受けましょう。
また、成人して仕事をするようになってから、ご自身で違和感を感じた場合も診断を受けることを推奨します。
なぜなら、成人になってから診断を受け、ADHDと認定された方の感想は『ショックよりも、ホッとした』と述べられているように、業務を上手くこなせない状況を1人で戦うのはつらいからです。
また、ADHDの症状が重く日常生活や仕事に支障をきたすなど障害年金の定める基準を満たしている場合、国の障害年金を受給できることもあります。
症状が強く仕事でお困りの方は、地域の障害年金相談センターを活用しましょう。
経済的な面だけでなく、ADHDを自覚・認知することは「仕事選び」の面において重要になります。
後で述べますが、ADHDの方は個人的な意見として「天才肌」の印象なので、才能を開花させるためにも仕事選びを慎重にされることを推奨します。
社会に出るまでADHDに気づかなかった場合、ADHDの方が「向いてない仕事に就いてしまった」とき、非常につらい立場におかれるので、「向いてる仕事」と「向いてない仕事」を理解しておきましょう。
ADHDの方に「向いてる仕事」「向いてない仕事」
飲食店でいうと、食材をカットして「複雑な調理手順に従って料理を作る」ようなお店は不向きといえます。
飲食店のホールでも、「臨機応変な対応が求められるサービスを提供するお店」は不向きといえます。
一方で、「料理を加熱して提供する」「カットして提供する」のような「手順が少ない調理」、料理を運ぶだけ、バッシング(お皿をさげる)するだけ、洗い場のように「マニュアルや業務内容が簡単なホール」のような、食事メインの大手飲食店の仕事は向いている印象です。
飲食店の仕事以外で、ADHDの方に「向いてる仕事」と「向いてない仕事」をご紹介します。
ADHDの方に「向いてる仕事」
ADHDの方は、「自分の強みを活かせる仕事」に就くと才能を発揮することができます。
上記のように、アーティスト系の仕事が多く、若い段階で「自分の興味があること」を仕事に選びたいところです。
調理師に関して、「料理に強い興味がある」場合は、職人として大成する可能性もありますが、マルチタスクや臨機応変的な対応が求められるので、「1日数組限定」のような、落ち着いて料理できるお店で働いたり、開業する必要があるでしょう。
*一般的な居酒屋などは不向きな印象です
ADHDの方に「向いてない仕事」
ADHDの方に向いてない仕事は、「臨機応変、対人スキル、マルチタスク」のチカラが問われる仕事です。
飲食店でADHDの症状がある方と働くと、1~2ヶ月のうちにだいたい分かります。
「仕事の覚えが悪い」という面ではなく、「うっかりミス」や一般的にしないようなミスの多さが目立つからです。
なので、ご自身の興味があり集中力が発揮されるお仕事を選びましょう。
ADHDの方が飲食店スタッフに多い理由
わたしは色々な店舗で働いてきたなかで、ADHDの症状がみられる方と出会いました。
マルチタスクや臨機応変さが求められる飲食業界で、なぜADHDの症状がみられる方々が「不向きと思われる飲食店で働き続けているのでしょうか?」
加えて、ADHDの方が飲食店で働き続けることの危険性についても解説します。
調理工程やホール業務が簡素化された飲食店なら仕事をこなせるから
先ほども少し述べましたが、飲食業界でもマニュアルや調理工程が簡素で明確な飲食店では、ADHDの方でも働ける印象です。
そして、マニュアルや調理工程が簡素な飲食店から、しっかり仕込みし調理工程が複雑な飲食店へ転職した時に、ADHDの症状が仕事に支障をきたすようになります。
以上のように、マニュアルや調理工程が簡素な飲食店で働いていた場合、ADHDであっても周りの人が気づきにくく、またご自身でも自覚することが難しい危険性があります。
新卒で入社して仕事ができないのは当然だから
20代前半で会社に就職したての頃は、『仕事が出来なくて当然』のような期間でもあり、ADHDの症状に気づきにくいといえます。
入社したてのスタッフに、上司は難しい仕事を与えることは少ないです。
しかしながら、入社して1~3年すると同期の新卒入社したスタッフと仕事における成長度合いに違和感を感じるようになります。
この時期に、本人にADHDの自覚があれば積極的に「向いている仕事に転職する」という選択ができるのですが、無自覚な場合はADHDの症状である「新しい環境はめんどくさい」という気持ちが大きく、つらい状況のまま働き続けるといった様子がみられました。
飲食業界は、未だにブラック企業や店舗が存在しており、悪い管理者の場合、意図的に長時間労働や無償の残業、仕事の押し付けなどを立場の弱いスタッフに行っています。
他の業種で務まらないから飲食業界へ
飲食業界で働くADHDの方は、他の業種で務まらなかった結果、飲食業界で働いているケースがあります。
これは、飲食業界の慢性的な人手不足と関係しています。
とくに、アルバイトスタッフとしての雇用では、現在の飲食業界で不採用となることは珍しいでしょう。
以上のように、本来なら「不向きな仕事」である飲食業界で、ADHDの自覚がない方は『何となく』働き始め転職できないようになる方がいます。
次に、具体的にわたしが見聞きしてきた「ADHDの方が飲食店で働いた時に及ぼす影響」と「飲食店で働いたことによるつらいこと」についてお話します。
ADHDの方が飲食店で働いた時の具体例とつらい現実
わたしが実際にADHDの方と働いたときに経験した「ADHDの症状が飲食店の仕事に及ぼす影響」と「見聞きしたつらい現実」についてお話します。
以上のような具体例が見受けられました。
「つまみ食い」や売り物のアルコールを飲んでしまうのは、横領にあたるので解雇された人もいます。
一般的な感覚からすると理解できない行動かもしれませんが、ADHDの方とアルコール依存は関係しているようです。
詳しくはこちらをご覧ください
アルコール依存症だけでなく、薬物・ギャンブル依存症にもなりやすいようです。
「お風呂に入っていない」のは、衛生管理が問われる飲食店で重要な問題です。ADHDの方はお風呂(シャワー)に入っていないと感じる(臭う)ケースがあります。
「お風呂が嫌い」というより、「作業工程がめんどくさい」ということが原因のようです。
詳しくはこちらをご覧ください
アルコール依存から大病を引き起こすことも…
ADHDの方がホールスタッフとして働きながら、飲食店の売り物のお酒を人目につかないところで飲み続けて、最終的に大病を患ったケースがあります。
その背景には、ADHDの症状により仕事が上手くいかず、「上司に𠮟責されることが多くストレスが溜まっていた」「ADHDの症状によるアルコール依存」という悪い連鎖が考えられます。
ADHDの方が自覚なく、不向きな飲食店で働くことは命にかかわる危険性すらあるのです。
働く環境によってはイジメの対象になることも…
飲食店は、規模が大きくなるとスタッフの数が増えます。
また、飲食店はスタッフ同士の連携が重要な面もあり、頻繁にミスを繰り返すADHDの方は、環境によりイジメの対象となることもあります。
そのような、悲惨なイジメを阻止するには、管理者や上司が、部下の仕事の様子を観察し『どのように指導すればいいのか?』を深く考え、ADHDの可能性があるならば、しっかり理解することが重要です。
ADHDの症状があるスタッフとの接し方について
飲食店の管理者や上司の立場で働いていて、部下にADHDの症状が見られる場合、どのように接するべきなのでしょうか?
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できないことよりも「できること」に着目する
ADHDの方が「できないこと」には、悪気はないので注意しても改善されにくい印象です。
なので、「できること」に着目し、与える仕事を選んであげてください。
また、仮にADHDの方がミスしても、管理者や上司の立場の方が「フォローできる内容の仕事を任せる」のも良いと思います。
少しずつ仕事の幅を増やすように誘導してあげましょう。
強みに目を向ける
先ほども少し述べましたが、ADHDの方は「自身の興味があること」に対しては、他の仕事に対してよりも高い集中力を発揮します。
なので、ADHDの方が上手にできる仕事に対しては、しっかり褒めてあげて、その仕事は任せるようにしましょう。
ADHDの各人によって違いがあると思いますが、わたしの経験では、ADHDの方は自己肯定感が低い印象を受けます。
それは、幼少期の頃から、学校や家庭で悪気はないのに注意され続けてきたからではないでしょうか…
なので、失敗に対して強く注意するよりも、成功に対して褒めてあげて自信をつけてあげるのが大切な気がします。
失敗しないための声かけをする
ADHDの方と仕事していると、『どのような場面や状況になると失敗する』といった傾向が分かります。
なので、「失敗する前に声かけしてあげる」、声かけだけで不充分な場合は手伝ってあげてください。
ADHDの症状がある人に対して『〇〇は仕事できない』のひとことで済ます人がいますが(ADHDの存在を知らない)、そのような発言をする人が「本当に仕事が出来る人」なら手伝うべきです。
実際に、仕事が出来る管理者や上司は、ごちゃごちゃ言わずサッと救いの手を差し出しています。
一緒に対策を考える
ADHDの症状がある方が、何度も同じミスを繰り返してしまう場合は一緒に対策を考えてあげましょう。
ADHDの方は、ミスしてしまうことに対して悪気はないので注意するだけでは改善されにくい印象です。
管理者や上司がしっかり向き合って、精神的に追い詰めるのではなく、穏やかな口調で意見交換する必要があります。
また、飲食店の仕事に「あまりにも適応できない場合」は、他の仕事を勧めてあげるのも1つの方法だと思います。
とくに、対象者が若い場合は、他の職種やアート関係など、興味ある事柄で大成する可能性があるからです。
まったく適性のない仕事で、人生を棒に振るのはもったいないでしょう。
ADHDと併存するASD(自閉症スペクトラム)
ADHDと併存する可能性がある、ASD(自閉症スペクトラム)についても知っておきましょう。
成人の発達障害の26.8%で併発しているという調査報告もあるように、ADHDとASD両方の特性を持つ人は珍しくありません。
ASDの症状が見られる方は、飲食業界の仕事がとてもつらくなると思います。
ASDの方が飲食店の仕事がつらくなるのはなぜ?
- ・相手(お客様・同僚)の気持ちや空気が読み取りづらい
- ・曖昧な表現(お客様の好みで提供するサービスが変わるなど)を理解しづらい
- ・人間関係(上司と部下の関係性など)を理解しづらい
以上のような事柄について心当たりがある方は飲食業界から転職することを考えましょう。
なぜなら、お客様や同僚の気持ちや空気が読み取りにくい場合、曖昧な表現で上司から注意されても理解することが難しく、人間関係が苦手なことも相まって上司や同僚と対立する(または強いストレスを感じながら働く)ことになるからです。
それでも、飲食業界で働きたい場合は、大手企業のように「労働マニュアルが明確である」職場をオススメします。
まとめ
今回は、「飲食店スタッフにおけるADHDの方」について解説しました。
要点をまとめます。
ADHDは、成人の40人に1人の割合で生じており、身近な存在であると心得る。
ADHDの症状の方が飲食店で働く場合、「マルチタスクや対人関係、臨機応変さ」でチカラを発揮できず不向きな業態がある。
ご自身がADHDの自覚がない場合で、飲食店の仕事が苦痛で『向いてない』と思うなら、ADHDの可能性を考えてみる。
なぜなら、ADHDの方に「向いてる仕事」と「向いてない仕事」は明確であり、アーティストなど自由な発想が発揮できる業界で大成する可能性があるからである。
企業や管理者もADHDについて理解を深め、理不尽なイジメや上司のパワハラなどを阻止すべきである。
『○○は仕事できない』のひとことで終わらせてはいけない。
ひとことで終わらせてしまう人に、管理者としての資格はないように思います。
あなたの人生が、豊かなものになりますように。